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青く澄んだ空しか視界に入らなくて、ふんわりと吹く風が頬を撫でる。 暑くもなく寒くもなく、これ以上無いってくらい最高の天気。 あまり人の居ない綺麗な芝生に寝転がっていると今にも眠ってしまいそうだった。 目を閉じてほんの少しだけ眠ろうとしたら、急に目の前が薄暗くなった。 見上げてみれば、ぱっちりとした目でが俺のことを見下ろしていた。

「こんにちは、みっくん。こんなところでお昼寝?」
も寝る?」
「やーよ、虫が身体によじ登ってきそうだもの」

そういうことを言うから、俺を無視して行ってしまうのかと思ったけど は俺の隣りにしゃがんで空を見上げていた。 俺は眠るのを止めて隣りに居るの方を見ていた。 そうしたらも俺の方を見た。 この綺麗な茶色い瞳がすごく好き。

「今日はお天気が良いからお昼寝びよりだね」
「ほんとに。は散歩でもしてたのか?」
「うん。でも独りで歩いててもつまんないよ」

退屈そうにして下を向いているの髪がふわふわとなびく。 かすかにシャンプーのいい匂いがした。 心が落ち着くこの匂いがすごく好き。

「ほんとに、いい天気だね」
「どっか行って遊ぶ?」
「それはデートのお誘い?」
「うん」

俺が笑うと、も笑う。 恋人同士なのか、友達以上恋人未満なのか、 互いに自分の気持ちを口に出しては言っていないけど、たぶん俺達は両思いだ。 一緒に居てとても心地の良い存在。そう思ってるのは俺だけじゃないと思う。

「今日はここでのんびりしてたいかも」
「じゃぁ俺もそうする」

かすかに吹いてる風が小さな雲をゆっくり動かして太陽を隠した。 たまに鳥がパタパタと視界を横切ったり、珍しいことに蝶がのんびり飛んでたりして。 まるで絵本の中に居るような景色に起きたまま夢をみてるようだった。

「みっくん」
「んー?」
「この空を上にまっすぐ行けば宇宙があるんだよね」
「あぁ、そうだな」
「でも小さい頃って、あの雲の上は天国だとか、神様が居るとか思ってなかった?」
「あー思ってた。でも何にもないんだよな、実際は」
「だけど目に見えないだけで本当はあるかもしれないね」

言われてみれば今より身長が50cmくらい低かったころ、 雲の向こうには天国があって神様がいてっていうのを本当に信じてた。 それ以前に俺は雲に乗ってみたいと本気で思ってた時があった。 大気中に浮かんでる水滴に乗ることが無理だと学校で教わったころには 俺はサッカーに夢中で小さい頃に思ってたことなんてすっかり忘れていた。 こうやってゆっくり空を見上げるのもすごく久しぶりのような気がする。

「俺1回で良いから雲に乗りたい」
「いいね、私も乗ってみたいな」

ほんとは無理だとわかっているけど、は笑ってそう言った。 普通だったら「なにそれ」ってバカにされるだろう。 けどは楽しそうに笑ってた。

「空は遠いね」
「あぁ」
「広いんじゃなくて果てしないんだよね、空は」
「そうだな」
「私、この空の色が大好き」

また風に吹かれて小さな雲がまたゆっくりと動いて太陽が見えた。 俺達の周りを飛んでいた蝶はいつの間にか居なくなって、 絵本の世界から少しずつ現実に引き戻されてる感じがした。 だけどしばらくはこのまま空を眺めていよう。 目の前には果てない空、隣りには大好きな人。

そのとき僕らの目に映ったのは手を伸ばしても届かない果てなく続く、そらいろ。

そらいろ / 2004.05.12 | 戻る