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窓側の1番後ろの席は、彼女だけの特等席だった。
「じゃぁ各自好きな席へ移動。喧嘩はするなよ」 担任がそう言うと、周りの生徒達は一斉に自分の座りたい席へと移動する。 今日は3ヶ月に1回の席替えをする日で、朝からこの放課後に行われる席替えの話でクラスは賑わっていた。 くじ引きだとまた同じ席になるとか、仲が良いこと近くが良いっていう意見が多くて自分で自由に席を選べることになってる。 俺は別に席替えなんていうものはどうでも良くて、毎回適当に席を選んでいた。 担任がただ1つ決めたルールと言えば「必ず隣は異性であること」という事だけだった。 周りが移動する中で、俺は適当に空いていそうな席を探した。 教室中を見渡すと、1つだけまるで結界が張られているようなそんな感じの場所があった。 −窓際の1番後ろの席。 そこには2年になって最初の席替えがあった時からずっとそこに座っている人が居る。 彼女は普段、他の女子達とはほとんど喋っていない。 数名の男子とは話しているのをたまにみかける。 女子から仲間はずれにされてるという訳ではなく、自分から仲間をはずれている感じだった。 気付けばいつも独りクラスの片隅に居る。 だけどその存在感は強い。たとえ喋ることが無いとしても。 彼女の性格は、とてもストレートだと俺は思う。 自分の意思をはっきり言って、他人の意見に絶対流されたりはしない。 周りのクラスメイト達から聞いいたことを参考にしただけだから、実際のことは分からないけど。 そんな彼女が進級当時から同じ席に座り続けられるのも、彼女に席を換わってと言える女子が居ないから。 居たとしても、彼女はどいたりはしないと思う。 それと担任の出した1つの条件、「必ず隣は異性であること」という事を守らなければならない。 このクラスは机が2個ずつくっ付いている。 そして、彼女の座っている隣の席は男子が1名足りずにずっと空いたままだ。 その席に誰か男子が座っても良いことになっているが、隣に座るものは居ない。 たとえ嫌われている存在ではないけど、やはり隣に座るのは抵抗があると誰かは言っていた。 「ここ座るよ」 無意識のうちに彼女の席の傍に行って尋ねていた自分が居た。 彼女はうつ伏せになって眠っていたのか、顔を上げて俺の顔をぼーっと見ている。 そして目を擦って、また俺に視線を合わせると口を開いた。 「…郭…だっけ?別に良いけど、アレが嫌」 彼女がそう言って指差す方向には、数名の女子が居た。 向こうと俺の目が合うと向こうに目をそらされた。 「人気者は辛いね。そういう訳だから他の席行けば?」 「別に、どこに座ろうが俺の自由でしょ」 持っていた鞄を机の上に置いて、席に着いた。 彼女はうつ伏せになっていた身体をまっすぐ伸ばしてあくびをした。 改めて俺の顔を見ると「はじめまして」と言って来た。 確かに話すのはさっきが初めてだったとは思うけど。 「お互い面識あるのに初めましてって可笑しいでしょ」 「面識あるって言ったってまともに喋ったの初めてだよね?細かい事気にしないでよ。よろしくね」 「まぁ良いけど。こちらこそよろしく、さん」 「サン付けしないで良いよー。でも可。…郭って下の名前何だっけ?」 「英士だけど」 するとは普段見せないような笑顔で「改めてよろしく」と言った。 俺もそれにつられて、少し笑った。 話してみるとやっぱり噂通り、感情がストレートでサッパリしてる方だから気を使うこともあまり無い。 だから話していてもとても楽になる。 「なんでココ選んだの?」 「空いてたから」 「ふーん。っていうか席替えなんてする意味無いと思うけど」 「俺もそう思うけど。はいつも同じ席だね」 「だってこの席好きなんだもん」 「先生にあてられにくくて、日が当たって寝るのに最高だから?」 「何で分かるの?こんなに素敵な席を離れたら授業どころじゃないよ」 「どっちにしろ寝るんでしょ」 「余計なお世話ー。英士は真面目なんだよ」 周りがまだ、席が決まらずもめている最中に俺達は教室の片隅でずっと話していた。 俺には何でがクラス全体と溶け込んで無いのか不思議でたまらなかった。 本来ならば、クラスの中心人物でも可笑しく無い。 「が女子と喋らない理由って何かあるの?」 「いきなりそんな質問?」 「前から気になってたから。嫌なら無理にとは言わないけど」 は、鞄から飴を取り出して口の中に入れた。 学校に食べ物の持ち出しはもちろん不可だが気にせずにが返事をするのを待っていた。 「なんていうか、女子ってものが嫌いだからかな」 ちょっと待って出た答えがこれでは、いまいち理解出来ない。 だから俺は続けて聞いた。 「自分も女子なのに?」 「周りはガキじゃん、中身が。私も人のこと言えないかもしれないけど」 「具体的に言うと?」 「表面的な友情にうんざりしたのと、グループが嫌い。無意味な集団行動は嫌なんだよね」 「何となく分かるかも」 「喧嘩の時のネチネチどろどろしてるのはもっと嫌」 「確かに女子は執念深いよね」 「だから私は気を遣うのも嫌だし、遣われるのも嫌って思う。これって自己中心的?」 「そんなことは無いと思うけど。むしろそっちの方が俺は良いと思うけどね」 「英士は良く分かってるね!うん、良い奴だ」 はそう言って俺の背中を叩いて笑った。 俺はって何も考えてないように見えてたんだけど、実際違った。 「今、私の事見直した?」 は可愛さと嫌味を混ぜた様な笑顔で俺を見る。 自分の考え方が単純だったのかとも思ったけど「まぁね」って答えた。 やったね、とはピースをして笑う。 その行動もまた俺の中のイメージを変えた。 「何か私って周りから色々と勘違いされてそう」 「例えば?」 「『何も考えて無い、変な奴』って思われてそうだよ」 「それはの思い込みだよ。第一、周りの意見なんて気にしないでしょ」 「もちろん!英士は私の事よく分かってるよね。何で?」 「普段の行動から考えてみれば誰でもそう思うよ」 「そうかな?」 話しているうちに回りは皆席に着いていて、HRが始まった。 担任の簡単な話だけで終ってしまい皆席を立って下校し始めた。 も席を立ち、鞄を肩にかけて帰ろうとしていた。 「バイバイ、英士」 「また明日」 簡単に挨拶をして、は教室を出ようとしていた時だった。 女子の集団が俺の視界に見えた。 「さんってズルイよね。いつもあの席だし」 「そうそう。しかも隣は郭君だよ」 「ほんとにムカツクよね。シカトする?」 「賛成ー」 席替えの時に俺達の方を見ていた女子達だった。 それもの嫌いなグループを作って集団行動するタイプの。 もちろんそれを聞いてが素通りする訳はない。 「誤解しないで欲しいのは、私は仲間に入れてくれなんて1度も頼んだこと無いって事。 入ってくださいって土下座して頼まれても願い下げだけどね。シカトでもなんでも止めたりしないから勝手にすれば?」 「ついでに、あの席に俺が座ったのは俺の意思だって事を頭に入れといたほうが良いよ」 の言葉に続けて俺が言うと女子達どころかまで驚いて俺を見た。 周りのことなど気にせずに俺は「行くよ」との手をとって教室を出た。 その時は周りの声なんて何も聞こえなかった。 そのまま学校を出て少し歩いた場所で歩くのを止めた。 を見ると、突然吹き出して笑い始めた。 それも爆笑に値する程の笑い。 「まさか英士が女子にあんなこと言うなんてね…あの時の女子の顔面白すぎ!」 「の顔だって変だったよ」 「もうちょっとで目玉飛び出るとこだったね、あれは」 「大袈裟だって。」 ゼーハーと呼吸してるはやっと笑うのを止めて俺を見た。 そして今度は微笑んだ。 「英士が今日隣に来てくれて良かった」 「俺今日、無意識の内に色々行動してた」 「何を?」 「さっきの言葉も、の隣を選んだのも」 進級当時から気にはかかっていた。 けど話すタイミングが無いというか、定着したイメージが邪魔をしていた。 きっと俺は周りの言っていたことを全てが真実と受け止めていたんだ。 なんでもっと早くの隣を選ばなかったんだろう。 「無意識に私の横を選んでくれたのって、喜んで良い事?」 「そう考えてくれたら嬉しいんだけど」 「うん、私も嬉しい」 「俺と一緒に居るの嫌?」 「え?嫌じゃないよ。楽しいし」 「の隣の席、俺のだけの席にしても良い?」 「英士なら、良いよ」 英士のこと好きだから、っては言った。 一瞬耳を疑ったけど、微笑んでるその顔は嘘をついてる様には見えなかった。 「ありがとう」 「どういたしまして」 素直に嬉しくてお礼を言ったら、は笑顔で返してくれた。 |
アウトサイダー / 2002.09.26 (2003.03.03) | 戻る |