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親の都合で2年通っていた中学から、寮のある学校に編入してしまった。
両親が仕事の都合で海外へ行くことになって、私は学校があるからと日本へ置き去り。
でも私は海外になんて行きたくなかったから、置き去りで良かったんだけれど。
編入してきて1週間、広い校内を色々歩き回っていたら不思議な物を見てしまった。 目の前にあるのは大きく高いフェンス。フェンスの向こう側には学校とよく似た建物がある。 不思議なのはそれだけじゃない。フェンスには南京錠がいくつも付いていた。 こんなところにつけて何の意味があるのかと問いたくなる。 フェンスに近づいて南京錠を良く見てみると、それぞれに名前が書かれていた。 名前の近くにはハートが書かれていたりLOVEと書かれていたり…これってもしかしておまじないか何かなの? 南京錠をよく見てみると、あちらこちらに同じ名前がいくつも書かれていた。 −ふじしろせいじ…、しぶさわかつろう…、みかみりょう…? 芸能人にそんな名前の人たちって居たっけ?聞いたことも見たことも無い。 もっとよく見たら三上って人の名前が多くてすごく目立ってた。一体何者? フェンスの南京錠を見ていると、視界に人影が入ってきた。 視線を人の方に向けると私が着ているものと同じ色のブレザーを着た男子学生が居た。 左胸に武蔵森の校章がついてる。なんで? 向こうも私のことに気付いたみたいで、なぜだか彼は思いっきり目つきを悪くしてこっちを見た。 睨まれたくらいでひるむわけにもいかず私は思い切って彼に声をかけた。 「あ、あの!あなたも武蔵森の生徒なの?」 「あ?何言ってんだお前」 当然のことを聞くな、とでも言うかのように彼の目つきはより一層悪くなった。 こんなに高いフェンスがあるし、彼がフェンスを登ってこっちに来ることはまずないから恐れる必要は無いよね…! 「武蔵森って、男子生徒居たんだなぁって思って…」 「ほんとに何言ってんだ?ココ共学だぜ」 「え!そうだったの!?てっきり女子校かと思ってた…」 私が吃驚したのと同時に彼もすごく吃驚していた。 それから大きく溜息をついて今度は呆れた様子で私を見下ろして口を開いた。 「お前なぁ…何の為にココにフェンスあんのか分かってないだろ」 「男子と女子を区切る為…?」 「分かってんだったらバカみたいな質問すんな」 「編入してきたばっかりなんだから知らなくても当然でしょ!」 「こんな基本的なこと、編入前に説明されんだろ。よくそんな頭でココ入れたな」 「ちょっと!」 立ち去ろうとしていた彼に再び声をかけると、また目つきの悪い目で睨まれた。 それでも無視せずに立ち止まってくれたからそこまで悪い人でもないんじゃないかと思った。 「あのさ、この南京錠に書かれてる名前の人って知ってる?」 「んなコト聞いてどうすんだよ」 「別に意味は無いんだけど…気になるから」 「くだらねえ質問に付き合ってるほど暇人じゃない。他の奴に聞け」 「知ってるなら答えてよ!このやたらと名前書かれてる三上リョウって誰なの?芸能人?」 突然、彼は思いっきりずっこけた。 なんで何も無い所でころぶんだろう。 「見かけによらずおっちょこちょいなんだね」 「誰がおっちょこちょいだ!しかもリョウじゃなくてアキラだっつーの!」 「やっぱり知り合いなんだ。ねぇ、どんな人なの?超美形とか?」 「あー、サッカー部の超美形。しかも天才」 「マジ!?会ってみたい!」 「ムリムリ、お前みたいに暇人じゃねえから」 「だろうね、キミみたいに暇人じゃなさそうだし」 「…」 「そんなに怖い目で見ないでよ」 「とにかく、俺は忙しいんだ。じゃあな」 彼はそう言うと私の返事を聞かずにさっさと校舎の方へと行ってしまった。 名前も学年も聞く暇なかったけど、あの人いったい誰なんだろう。 その後、教室に戻って授業を受けたけどほとんど上の空だった。 三上亮のことも気になるけど、さっき会ったあの人はもっと気になる。 また明日あの場所に行ったら会えるのかな。 「あ!」 翌日の昼休み、また昨日と同じ場所へ行ってしばらく待っていると彼がやって来た。 彼は私のことに気付いた瞬間、顔色を悪くして立ち止まったけどすぐに素通りしようと歩き始めた。 「話があるの!行かないで!」 ガシャンガシャン!とフェンスを両手で掴んで前後に揺らしながら叫んだ。 それでも彼は聞いてない振りをして通り過ぎようとしたから、私はもっと力を入れてフェンスを揺らす。 「うるせえ!」 彼は振り返って大声でそう叫ぶと、イライラした雰囲気を漂わせながらこっちに戻って来た。 目の前に立った彼の目はやっぱり怖くて、一瞬身を引いてしまった。 この人は本当に超美形の人気者・三上亮と知り合いなんだろうか。縁が無さそうにも見える。 「もしかして不良ですか?」 「…だから何でお前はそうゆう意味不明な質問ばっかすんだよ!」 「無知だから?」 「あぁ、無知だ。お前バカだもんな」 「昨日から失礼だよ、キミ」 「どうでもいいから早く用件を言え」 眉間にシワを寄せて、両手はポケットにつっこんだまま彼は私を見下ろして言った。 彼は黙って居ればカッコイイと思う。けれどこの性格じゃ女の子だけじゃなく男も引くと思う。 「名前と学年おしえて」 「知りたいならそっちが先に教えろよ」 「なに、私のこと気になるの?」 「聞いても覚える気ねえけどな」 どうせ声をかけるならもうちょっと優しそうな人に声をかければよかったと後悔した。 今更後悔したところで何の意味も無いんだけれど、嫌だなぁこの人の雰囲気。 その黒い瞳に全部吸い込まれそうなかんじ。 「…、3年」 「3年?見えないな」 「ほんとに失礼ね…そっちは?」 「3年」 「名前も言ってよ」 「三上亮」 「はい?」 確かに今、目の前に居るこの人が"三上亮"と名乗った。 フェンス越しだけれど目の前に居る"自称・三上亮"を頭のてっぺんからつま先まで眺めて見た。 けれど目の前に居るのは昨日会った人と同じで、想像していた超美形の天才とは全く違う。 「ごめん、聞こえなかった」 「だから三上亮だって言ってんだろ。聞こえない振りすんな」 「おかしいなー。三上までは聞こえたけど名前はなんだって?」 「亮」 「えーと、あき子さん?」 「俺はオカマじゃねえ!」 "自称・三上亮"は器用にフェンスの隙間に長い指を入れてこっち側に居る私の頬をつねった。 なんでこんな人が三上亮で、女子達から人気者なんて信じられない!何かの間違いよ。 「ひゃあさ、ひょーこみへてよ」 「証拠見せろって?見せなくたって本人が言ってんだから信じろ」 「ひや!」 「嫌って言われても証拠になるもの無い」 「へーとひぇひょうは?」 「生徒手帳?んなもん持ち歩いたことねえよ」 「あひょ!」 頬をつねられていて「アホ!」とまともに言うこともできない。 すると突然男子の校舎の方から物凄く速いスピードで走る少年が出てきた。 「あー!三上センパーイ!ここに居たんスね!」 え、みかみ? 「あ、丁度良い所に来たな、バカ代。お前が証人になれ」 「証人?っていうかバカ代じゃなくて藤代っス!」 「藤代よりバカ代の方が似合ってんだよ」 え、ふじしろ? 「つーか、何で俺のこと探してたんだよ」 「あ、そうそう。キャプテンが探してたんですよ」 「渋沢が?」 え、しぶさわ? 「話してる最中に悪いんだけど、この人ほんとに三上亮?そしてキミが藤代誠二?」 「え?あぁ、俺は藤代誠二でこっちは三上先輩っスよ」 「だからさっきから言ってんじゃねえか。お前ほんとに物分り悪いな」 「じゃぁ藤代君に聞くけどさ、三上亮って超美形で天才って聞いたんだけど本当?」 「超美形?天才?三上先輩が?」 藤代君が三上の顔を見てそう言った時、三上の拳が藤代君の頭上に思いっきり落ちた。 もちろんすごく鈍い音がして、藤代君は痛みに耐えられず頭を抱えてその場に座り込んでしまった。 「痛いっスよ…なんで殴るんですか!」 「殴りたかったから」 「三上亮のウソツキ!私もっと王子様的な人を想像してたのに」 「いまどき王子なんて居ねえよ!何で俺の周りに居る奴等ってバカばっかりなんだ…」 「俺バカじゃないっスよ!」 「私だってバカじゃないわよ!」 「俺以外みんなバカなんだよ!」 「こんな奴が人気者なんて私絶対認めない!」 「認めなくて結構。俺だって好きで人気者になってるわけじゃねえし」 「うそだー、先輩ってバレンタインとか超自慢してるじゃないっスか」 「うわー最低」 「お前らなあ…!」 三上の右の拳がふるふると震え出して、今にも怒り爆発って感じだった。 フェンスがあるから私は平気だけど藤代君がまた殴られそうになっていた。 しかし藤代君は素早くそれを避けて、三上の拳は空気を切ることになった。 「暴力反対!じゃぁ俺、授業あるんで先に教室戻ります!」 「…部活のとき覚えとけよ」 既に校舎の方へと走り出していた藤代君が、三上の言葉を聞いていたかわからないけど、 放課後の部活で藤代君がケガをしませんようにと私は心の中で祈った。 やっぱり目の前に居る三上は想像していた人とは全く違って、本人だと信じることが出来なかった。 「まだ何か文句あんのかよ」 「文句ってわけじゃないんだけど…やっぱりさ、もうちょっと優しい人が良い!」 「何で俺がお前の好みに合わせなきゃなんねえんだよ」 「期待を裏切った罰」 「別に裏切ったつもりないし」 俺は全然悪くない、と三上は堂々と答えるから私は何も言い返せなかった。 たぶんこのまま会話していても、あぁ言えばこう言うって感じで何の意味も無いと思う。 「ひとつ聞いてもいい?」 「あ?なんだよ」 「何で昨日会った時は三上は自分だって名乗らなかったの?」 「忙しい時にわざわざ自己紹介して喋ってる奴なんてドコに居んだよ」 「じゃぁ何で今日は名乗ったの?」 「ストーカーがしつこいから」 「ストーカー?え?誰が?」 「お前」 「は?私!な、何で!」 「俺のこと待ち伏せしてただろうが」 「待ち伏せはストーカーじゃありません」 「同じ様なもんだろ」 何様なの、この人…! ほんとに口が減らないし、俺のほうが偉いオーラがむんむんと出てる。 この人のファンだって子たちに理由を聞きたいわ。 さっきから話してても全く良い所が見つけられない。嫌な所ばっかり! 「どうせストーカーになるんだったらキミじゃなくて藤代君を選ぶわよ」 「何でバカ代のこと選ぶんだよ」 「だって藤代君の方が良い人そうだもの!」 「お前ほんとにバカだな。人を見る目ねえよ」 「もー!三上って黙ってれば少しはマシなんだから、ぐだぐだ言わないでよ」 「ぐだぐだ言ってんのはどっちだ!お前こそ黙ってりゃマトモなんだから喋んな」 「お願いだから、どうして三上が人気あるのか教えて。私には理解できない」 「そんなに気になるなら今度の日曜、試合やるから観に来い」 「ほんとにその試合見れば理由がわかるの?」 「あぁ、試合が終了する頃には絶対惚れる」 「ふーん。まぁいいや、暇だから観に行く」 そう言うと三上はさっさと校舎の方へと戻ってしまった。 場所とか聞けなかったけど、多分クラスにも試合を観に行く子が居るから一緒について行こう。 日曜日、クラスの子と試合を観に行ったら、そこにはちゃんとユニフォームを着た三上が居た。 近くには藤代君の姿もあって、試合前なのにすごくウキウキしてるように見えた。 するとまた三上が藤代君を殴って口論になりかけたけど背の高い人が止めに入ってた。 あんな暴力的な人が試合終了までずっと退場せずにいられるのか謎だ。 サッカーのルールを知らずに観ていたけど、なかなか楽しくてあっという間に試合は終了してしまった。 確かに三上の言ったとおり、私は試合終了後に今までにないくらい胸がときめいていた。 藤代君に対して。 |
Real-15 / 2004.04.08 | 戻る |