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真田君が頬に正方形の少し大きいバンドエイドを貼って登校してきたものだから、クラスの女子達がざわついた。 あのカッコイイ顔に傷が出来た!とか小さい悲鳴をあげてる子も居た。 たかが少しの怪我位でそんなに騒ぐなんてどうかと思うけど。(彼女達にとって"真田君は顔が命"なのかな…) きっと真田君が怪我をしたから起きることであって、その辺の男子が同じことをして登校しようとも無反応で終わるのがオチだ。

朝から噂を聞いて真田君を見に他のクラスの女子が覗きに来る。 真田君は相変わらず不機嫌な表情で女子の方なんて見向きもしない。 人気者であることで鼻を高くする奴とは違って、真田君はいつも一人だった。 女子はもちろんのこと、男子ともほとんど喋っている所を見たことが無い。

私だって喋ったことは1度も無い。 特に興味が有る訳でもないし、ただ何となく近寄りがたくて怖い存在だった。 真田君が同じクラスだからといって私の名前を知ってるという自信はほとんど無いし、話かけるきっかけもネタも無い。 自分から自分のことを話すことなんて滅多に無いから、真田君は謎に包まれてる。
多分女子は外見だけで好きになってるに違いない。 私は外見よりも中身重視だから、好きとか嫌いとかいった感情は持ってないけど。 この学校で真田君の性格を知ってる人なんて居るのかな。

クラスの女子2〜3名が「その傷どうしたの?」とか「大丈夫?」とか聞いているのが見えた。 真田君は突然話しかけられたことに少し驚いてから、視線を合わせることなく「何でもない」と不機嫌な顔で答えていた。 本当に無愛想な人だなって思ったけど、それは今に始まったことじゃないから周りもそんなに気にしなかった。
笑ったらどんな顔するんだろうなんて、考えるだけ無駄なのかも。 あの不機嫌で無愛想な表情以外見たことない。



1時間目の選択の授業で国語を選んだ私は、一人で授業を行う教室へと移動した。 一人になると話し相手が居なくて少し寂しい感じがした。 友達と一緒に英語を選んでおくんだった。でも英語はあまり得意じゃないから国語にしたんだけど。
教室に入ろうと思ったら、真田君の姿が見えた。そういえば真田君も国語だったんだっけ。 窓際の1番後ろはもう他の人が座ってたから、その1つ前の席に着いていた。 私も、窓際が良いな。今日は天気良いから。 そんなことを思いつつ、真田君の前の席に座った。何だかぎこちない感じがしたけど。

他のクラスの人達も続々と入ってきて、 見た限りでは真田君を見て騒ぐような感じの子達は幸いなことに居なかった。 教室を見渡してみると女子と男子が3:7位の割合で居た。なんだ、女子は少ないんだ。 廊下側の真ん中辺りに座ってる女の子、前にちょっとだけ話したことのある子だった。 目があって、少し微笑んでくれて嬉しかった。それで少し安心した。
ふと、後ろの席を見ると真田君は頬杖をついて退屈そうに窓の外を見ていた。 右の頬には、正方形のバンドエイド。何だか不思議な感じ。 目が合うと気まずいから、すぐ前を向き直して不自然に教科書を開いた。 どこやるのか知らないのに何やってるんだろう…


授業が始まってから、30分位経っただろうか。 1時間目から国語で先生の話をずっと聞いてるのは眠くなる。やっぱり英語にすれば良かった…後悔。 先生が廊下側の席から順番にプリントを配り始めた。 一番窓際まで来て、前からプリントを渡された。そういえば後ろって真田君じゃん。 何だろう、この妙な緊張感は。今まで少し真田君が後ろって忘れかけてたけど。 ゆっくりと後ろを向くとそこには黒い頭と腕しか見えなかった。

あの真田君が1時間目から睡眠です、先生!予想外の出来事に少しショックです。

恐る恐る声をかけてみても起きない。だから申し訳ない気もしたけど頭を軽く叩いた。 男子にしては少し長めの黒髪はサラサラしてた。トリートメントとか使ってるのかな。やっぱり真田君だし!

とか思ってるうちに真田君が目をこすりながら眠そうな顔を上げて私を見た。 起こされたからなのか、元からだから起きてもこういう顔なのか分からないけど不機嫌な顔だった。 起こした私としては凄く気まずくて怖いんだけど。

「あ、の、プリン」
「なあ早く回せよ!」

プリントのプリンまでしか言えずに真田君の後ろの人に怒られた。 真田君は寝起きだからやっぱり意識がはっきりしてないらしく、「プリン?」と眉をひそめて私を見てる。 ダブルパンチってこういうことを言うんだね。後の人も後ろの後ろの人も怖いです。 私はプリントを持って席を立って後ろの後ろの人に先にプリントを渡した。 手元に残した2枚のプリントのうちの1枚を真田君に手渡した。 真田君はやっと今の状況を理解したらしく、少し戸惑った表情で私を見て「悪い」と一言言った。 私は首を横に振ることしか出来なくて、先生がプリントの説明をし始めたから前を向いた。 真田君が授業中に熟睡するなんて、よっぽど寝不足で疲れてたのかな。

授業が終わって席を立ったとき、「おい」って声をかけられた。 後ろを振り向くと真田君が立っていて少しだけ目線を上げて彼を見た。 不機嫌な顔じゃなくて、何だか複雑な表情だった。

「な、何?」
「さっき、悪かった。俺、完全に寝てて気付かなかったんだ…ごめん」

さ、真田君に謝罪された…!
何だかこっちが土下座して謝らなきゃいけないような感じの雰囲気。 私がどうしていいのかわからなくなってきた。

「あの、全然気にしてないから!そ、それよりその傷大丈夫?」
「え?」

1番無関係なこと聞いてしまった…!でも気になってたことに違いは無いんだけども。 ほら、どうでも良いこと聞いたから真田君の表情が曇った。 答えは分かってるのに。「何でもない」って言うって知ってるのに。聞いた私が馬鹿だった。 ていうか聞いてどうするんだ、って感じだけど…

「ただ、猫に引っかかれただけだ…」

照れた表情で真田君が言った。猫って言った。猫って、にゃーって鳴くネコ? 「何でもない」じゃなくて「猫」って言った、真田君が、私に。

え!

「ね、猫?」
「笑うなよ!」
「笑ってないよ!な、何で教えてくれたの…?聞いておいて、アレだけど…」
は…他の奴みたく、騒いだりしないから…」

恥ずかしいだろ…猫に引っかかれたなんて、と真田君は頬を赤くして言った。 それに私の名前をちゃんと知ってて、他の子と違うって分かってくれてた。

す、凄いことだよね、これ!

何故だか少し感動してる。 真田君って実はそんなに怖い人じゃないのかもしれない。

「ありがとう!」
「は…?何が?」
「私の名前とか知っててくれたから…!」
「それは…普段の生活見てれば大体分かる」

真田君は視線をずらして横を向いてしまった。 私のことなんて、視界に入ってないと思ってたのに。意外だった。

一緒に教室を出た時に真田君に、「彼女と喧嘩して怪我したのかと思った」って言ったら、 真っ赤な顔して「か、彼女なんて居ねぇよ!」って激しく否定してた。居ないんだ、吃驚。

真田君のバンドエイドはその後3日間は取れることが無かった。 あぁいう傷って、バンドエイドとか貼らない方が良いのに…。

Hidden / 2003.05.11 | 戻る