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鳥のさえずりが聞こえる森林の中の道を歩き始めて10分。
予想では既に目的地に着いているはずなのに、見つめる先にはまだ道が続いている。
確実に前へと進んでいるはずなのに、永遠にこの森の中を歩き続けて
外に出られなくなってしまうんじゃないかと錯覚を起こすほどは疲れていた。
「まだー?」 「まだ」 「あと何分?」 「さぁ」 「平馬ここ来たことあるんでしょ?」 「あるけど、忘れた」 「…おいおい」 二人の前で会話を聞いていた須釜は少し笑いながら「もう少しですよ」と全然疲れた様子を見せずに言う。 それを聞いたは本当にもう少しで着くのか目の前の道を見て疑ったものの文句を言わず前へ進んだ。 平馬は何も言わず黙々と歩き続け、ケースケは足元に転がっていた小石を蹴りながら須釜の後ろを歩いている。 更に歩き続けること5分。微かに川のせせらぎが聞こえてくる。 すると先頭を歩く須釜が前方を指差しながら言った。 「橋が見えてきましたよ」 その声に下を向いていたはパッと顔を上げて2mほど離れていた須釜のもとへ走った。 そこには確かに橋が架かっていて、その下には太陽の光を浴びてキラキラと光っている川があった。 が橋の手すりから身を乗り出して川を眺めて居ると、追いついて来たケースケが隣で同じ様にして川を眺めた。 「魚でも居んのか?」 「あそこに居る。あれ、おいしい魚?」 「どうだかな…食ったことないし」 「あー釣竿持ってくれば良かった」 「オイコラ、置いてくぞ」 1番後ろを歩いていたはずの平馬が追い越し際に言う。 その声で振り向いたケースケが前を見ると、須釜が橋を渡りきったところで立ち止まって待っていた。 ケースケが魚を諦めるように言うと、は名残惜しそうにその場を離れ、また目的地を目指して歩き始めた。 最後の長い坂を登り終えると、ようやく目的地に辿り着いた。 階段を上がってスタンドへ出ると、そこには既に他選抜の面々が座っていて、 ピッチではウォームアップをする都選抜と関西選抜の姿がある。 「!」 メインスタンドに近い丁度真ん中あたりの場所に座っていた日生が笑顔で声をかける。 日生の前には同じ東北選抜の雄大達が座っていた。 が日生の隣に座ると、その横に平馬が座り、その後ろに須釜とケースケが座った。 「遅かったなーもうすぐ試合始まるぞ」 「うそ、もうそんな時間?」 時計に目をやると、キックオフの時間まで残り5分を切っていた。 ピッチでウォームアップしていた選手達が整列すると、審判がピッチへ姿を見せる。 場内が静まり返り、その中で主審の声が響いた。 「只今より関西選抜対東京選抜の決勝戦を行います!」 選手同士の握手が終わり、両キャプテンが集まり主審がコイントスが行われる。 そして選手が各ポジションにつくと、風祭がセンターサークルにボールを置いた。 「いよいよ、だな」 日生は静かに笑った。 はそれに一度頷いて答えると、真剣な面持ちでピッチを見た。 緊張感が一気に高まって、場内の静けさが更に増す。 主審が笛を銜え、腕時計に目をやった。 − ピッ! 笛の音が一瞬響いた後、ボールと選手が動き出し、ついに決勝戦がスタートした。 開始直後、ボールは関西選抜に渡り、ディフェンスを次々とかわしたシゲがゴールを狙った。 ダイレクトでループしたボールは渋沢の頭上を飛んで行き、ゴールが決まったかと思われたが、 渋沢が後ろへ下がり、伸ばした指先に当たったボールはバーの上へと弾かれる。 静かだった場内はシゲのプレーで一気に歓声が沸いた。 関西ペースで試合が進み、攻撃の中心に居るシゲは更にスピードを上げて攻め続ける。 DF3人に囲まれてもまだボールをキープしていると、味方が次々と前へ上がってきた。 するとシゲはゴールに背を向け、味方にパスを出すのかと思い椎名が一瞬気を抜いたその時、 ボールが椎名の胸に当たり、シゲが振り向きざまにシュートを打つ。 ポストに直撃したボールは大きく弾かれシュートは外れたと思った次の瞬間、ゴールネットが揺れた。 呆然とする人が多い中、ゴールを決めたノリックが笑顔で藤村のもとへ駆け寄る。 シゲの実力を前には息を呑んだ。だけではない。 周りで見ていたほとんどが呆然とし、シゲがこの世代No.1の実力の持ち主だと認めざるえなかった。 前半18分。 このままの調子で関西が押していくのかと思えたが、風祭が先程のシゲのプレーを真似て― 完璧に真似たわけではなかったものの―何とか押し込んでゴールを決めた。 そして前半終了間際、水野のパスに風祭がヘッドで合わせ、東京選抜2点目のゴールが決まった。 「…もう前半終了か」 主審が笛を吹いて前半終了の合図がされたとき、日生が肩に入っていた力を一気に抜いて ずるずると背凭れに身体を預けながら呟いた。 も時間や今何処に居るのかさえも忘れてしまう程この試合に魅入ってしまっていて、 ハーフタイムに入り、選手達がピッチから出てきているにも関わらずまだピッチの方を見ていた。 その様子に気付いた日生が不思議そうにを見る。 「おい、…目開けたまま寝てんの?」 「え? 何?」 「どうしたんだよ、ボーっとして」 「いや…あんなに上手いと思ってなかったから吃驚してた」 「あぁ、藤村? 確かにアイツ凄いよなー」 「違う…っていうかシゲもそうなんだけど、それ以上にポチが」 「ポチ?」 犬なんて何処に居るんだよ、と日生は周りを見渡し始めたが、 後ろに座っていた須釜が「ポチはあだ名ですよ」と笑いながら教えた。 すると隣に居たケースケが思い出したように口を開いた。 「東京の19番か。パス練の時に同じグループだったけど、あいつ見かけによらず上手いよな」 「あぁ、チビだからスピードもあるしな」 「ケースケくんも平馬くんも失礼ですよ…って僕も最初は吃驚しましたけどね」 話をしているうちにハーフタイムは終了し、関西選抜が先に選手交代に動いた。 後半から入った吉住を起点に攻撃を仕掛ける関西選抜は開始5分で2ゴールを奪い、 あっという間に東京選抜は逆転されてしまった。 黙ってを見ているわけにもいかないこの状況で、西園寺監督がついに動き出した。 MF2人を下げFW2人、そして負傷しているわけでもないのにGKを交代させた。 「目には目を、ってやつか」 「点取らなきゃ勝てないもんね」 「…ところではどっち応援してんの?」 「そう言う日生はどっち?」 「俺? 俺は東京かな。俺達に勝ったし」 「私も東京。なんとなく勝ちそうな気がする」 「勘?」 「勘」 日生とが話しているうちにも両チームの激しい攻防は続いた。 何度シュートを打ってもゴールネットを揺らすことはなく、 やっとの思いで繋いだパスはあと一歩のところでカットされてしまった。 それでも選手達は諦めずに何度も何度もゴールを狙う。 その中でも特に風祭は他の誰にも負けないほどの力を振り絞って、 息が切れて足がグラついても、ただ真っ直ぐボールを追いかけゴールを狙っていた。 言葉には出さなくとも、絶対に負けたくないという気持ちが観ている側にも伝わってくる。 クリアーされてサイドに転がっていくボールを小岩が全速力で追いかけ、それを水野が前線へ運ぶ。 ゴール前に居る風祭にパスをした瞬間、走ってきたシゲがボールに追いつき、伸ばした足にボールが ぶつかりラストパスともいえるパスの軌道を変えてしまった。 風祭は後ろを転がって行こうとしたボールに追いつき足で触れると、ボールは宙に浮き上がってしまった。 シゲはシュートしようとしている風祭を止める為に飛び上がって、シュートを打つ前にボールをクリアーしようとしたが、 その動きが一瞬止まり、次の瞬間、風祭はオーバーヘッドでシュートを叩き込んだ。 GKは正面に居たものの、反応する前にシュートは決まってしまった。 東京選抜3点目。場内は今までに無い程の湧き上がる大きな歓声で包まれる。 後半終了間際で決められたゴールで同点になり、試合はロスタイムへと突入しようとしていた。 しかしシュート後にシゲと同時にピッチに落ちた風祭は未だに起き上がらず、 心配したチームメイトやコーチが次々と駆け寄って行った。 「ポチ、どうしたんだろ…」 「なかなか起き上がんねーな…関西の奴は足ひねったみたいだけど」 「…ちょっと降りて見て来る」 は立ち上がりスタンドからピッチへ降りる階段の方へ行って、階段を降りようとしたとき 風祭の周りに居た選手達が散らばり、風祭が立ち上がって仲間の後を追いかけようとしていた。 それを見たは階段を降りるのを止め、席へ戻ることにした。 「風祭ー!!」 突然、背後で大きな声がして、驚いてピッチの方を見るとそこには風祭が倒れてうつ伏せになっていた。 状況を理解する間もなくは風祭の元へ走り始める。 いつの間にか掻いた身体の汗に風が当たり、その冷たい感覚が体温を下げた。 |
2005.01.25 / Top | 18:Forward → |