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はいつもと違う感覚に気付き目覚めた。
昨日の記憶が薄いのかそれとも寝ぼけているのかココがどこだかハッキリしないらしい。
― そうだ…トレセンだっけ。まあ良いや…寝よ。 は一旦目を覚ましたがまた布団の中にもぐってしまった。 また眠りにつこうとしたとき、ベッドの横にある備え付けの電話が鳴った。はベッドから手を伸ばして受話器を取る。 「…もしもし」 「ちゃん? もしかして今までずっと寝てたの?」 「寝てた…今何時ですか?」 「もう8時よ。みんな食堂で朝ごはん食べてるからちゃんも今のうちに食べといてね」 「朝ごはんなんて要らない…」 「トーストとかで軽く済ませるだけで良いから行きましょうね」 「はい」 はだるそうに電話を切った。眠いのにわざわざ食堂まで行かなければならない。 だからといって行かなかったら西園寺監督に何をされるかわからない。 めんどくさそうにベットから起き上がると、洗面台に行って顔を洗い、 Tシャツと短パン姿からまたラフな格好に着替えて、部屋のカギだけ持って廊下に出た。 食堂の中は当然ながら人だらけで、 が入った途端、最初とはちがうざわめきが起きた。 しかし、 はそれも気にせず自分のごはんを貰うためトレーを持って食事を取りに進む。 「さん、おはよう!」 「こっち空いてるから一緒に食べようよ!」 「藤代も若菜も邪魔だ!」 「何だよ、鳴海!」 「鳴海の方こそ邪魔だっつーの!」 いきなり後ろから押しかけてきたのは藤代・鳴海・若菜の東京選抜お騒がせトリオ。 は気にすることもなく無言でトレーに食事をのせる。 再度、3人に何を話しかけられてもが返事をすることは無かった。 本人は眠くてハイテンションな人の相手などしてる余裕が無いのだった。 それ以前に名前も知らない初対面の相手と仲良く喋ろうとは思ってなかった。 「お前等朝っぱらからうるさいんだけど。もう食べたなら出てけよ。邪魔だから」 そう言ったのはではなく都選抜の椎名翼だった。 小柄な割には存在感はとてつもなく大きいし、態度もでかい。 人は見かけによらないというのはきっと椎名のことを指すんだと思う。 「相変わらず顔に似合わず毒舌炸裂だね、椎名翼」 「何で俺の名前知ってるわけ?」 「それは秘密だよ、みんなのアイドル椎名翼くん。あ、間違っても私は”みんな”の中に入んないけど」 「ケンカ売ってんの?」 「昨日も言ったけど私はケンカはしない主義だから」 「勿体ぶらないでさっさと言えよ。飛葉の生徒か?」 「飛葉じゃない。ここまで言えば分かるでしょ?」 自分からは答えを言いそうにないに、椎名は苛立ちを抑えて考え始めた。 そして何か閃いたのか、はっとした表情でを見て眉間にシワを寄せると、言いたくないという表情で重そうに口を開く。 「…冗談はよせ。それで麻城とか言うなよ」 「頭が良ければそれなりにやっていけるんです。見た目で判断すんなって言ってるでしょ」 頭を抱える椎名に、横に居た藤代が不思議そうな表情で二人を見ていた。 「キャプテン、麻城中ってそんなに凄いんですか?」 「東京ではレベル高いって有名な学校だぞ。お前知らなかったのか…」 「すげー!」 「バカに頭いい奴は合わねぇんだよ!」 「鳴海だってバカだろ? 人のこと言えないじゃん!」 「そういう言い合いしてる奴らはみんなバカでしょ」 サラリと突っ込んだのは食べ終わった後の食器を片付けに来た郭英士。 一緒に居た真田一馬は苦笑していた。 は椎名との会話を一方的に終えて食事を取ろうとテーブルのある方へ行こうとする。 すると目の前からまた余計な人物が割り込んできた。 金髪が目立つ関西選抜のシゲだった。 「昨日喋りたかったのに勝手に帰ったやろ」 「そんなの知らない。邪魔、進めない」 いつの間にか呼び捨てで呼ばれているもののは特に気にしなかった。 しかし手にトレーを持ちながらシゲを避けて通ろうとするが同じ方向にシゲが動く為前に進めない。 「挨拶位してくれたってええやん。俺昨日のお礼貰って無いんやけど」 「は?」 「昨日フォローしてやったお礼や。覚えて無いんか?」 「別にフォローしろなんて頼んでもいないし、お礼するなんて一言も言ってない」 「冷たいんやなーまぁそこがええねんけど」 「どうでも良いからどいて。ありがとーございました。以上」 はシゲを避けて前進した。が、また目の前にシゲが現れる。 いい加減うざったくなってきたのか は早朝の早起きの分も兼ねてかなり機嫌が悪くなっていた。 「こっちのほうが嬉しいんやけど」 シゲはそう言っての顔に自分の顔をゆっくり近づける。 しかしは冷静だった。それもそのはず。は蹴る準備万端の状態だった。 「何すん」 「藤村、抜け駆けは許さんで」 が蹴ろうとした瞬間、ノリックがどこから持ってきたのかボールを蹴飛ばして横からシゲの顔にぶつけた。 シゲは油断していたのかそのボールに直撃。 ボールを当てたノリックは直撃したのを見て笑っていた。 「の…ノリック何すんねん…!」 「会って1日しか経ってへんのにそうゆうのはアカンやろ?」 ノリックとシゲが言い争いをしているとはスタスタと横を通り過ぎて行った。 しかし空いているテーブルが無くて立ち止まり座れる席を探していた。 はあるテーブルの前で立ち止まった。 「ここ座って良い?」 が選んだテーブルは東海選抜のエリートユースコンビ(山口・横山)の居る所だった。 1つのテーブルに椅子は3つあり1つ余っていた。 「…何で?」 「空いてるし、静かだし、ちゃんと食事が取れそうだったから」 「別に構わないけど」 「俺も」 2人の答えに遠慮なく席にすわっては食事を始めた。 みんなの視線が集まる中はもくもくと食事を取っている。 そして横で食べている平馬を見ては言った。 「朝からよく食べるんだね」 「お前こそ食パンだけなんて倒れるぞ」 「いっぱい食べる方が倒れる。ところで君達サッカー上手い人?」 「そっちこそ本当にサッカー出来んのかよ」 「疑うなら実戦あるのみだね」 自身有り気に笑みを浮かべるに、圭介が苦笑しながら「俺達一応ユースなんだけど」と言う。 すると、は目の色を変えて二人を見た。 「マジ? もしかして東海の激ウマ選手?」 「俺は山口圭介。そっちは横山平馬」 「何で俺達の事知ってるんだよ」 「昨日の夜、西園寺監督がマル秘メモ見せてくれたから」 マル秘メモって何だよ…という疑問は口に出しては言えなかった。 そしてに秘密事項を教える意図はなんなのかという疑問も浮かび上がる。 しかし背後に寒気を感じ、恐ろしくなって問い詰めることが出来なかった。 「私の事はで良いよ。今から友達ね」 「あ、あぁ…よろしく」 突然の事に圭介は少し動揺した。だが少し嬉しかったことに変わりは無かった。 平馬は大きなリアクションを取る訳でもなく、ただ朝食を食べていた。 「イキナリ話飛んだよな、今」 「気のせい。二人とも年上だよね? 敬語使うべき?」 「使われる方が引く」 「だよね。私も思った」 戸惑う圭介を気にせずに平馬とは話していると、 違う選抜のジャージを着た人物がテーブルに近づいてくる。 それに気付いた圭介が顔を上げると関東選抜の須釜が居た。 「楽しそうですね、ケースケ君」 「スガ…!」 「朝からこんなに可愛い子と食事なんて羨ましい限りですよ〜」 「そ…そうか…?」 「誰この人。ケースケの知り合い?」 「関東選抜の須釜」 の質問に平馬はめんどくさそうに答える。 「スガ…? あー!」 突然は須釜を指差して叫んだ。 これにはその場に居たメンバー全員が驚きその場は静まり返った。 「フットサルやってたりするでしょ!」 「ええ、たまにやりますよ〜。僕のこと知ってるんですね」 「やっぱりノッポの中学生! 名前は微妙に聞いたことあったけど、実際会ったの今日が初めて」 「僕は前からあなたの存在を知ってましたけどね」 「何で?」 「サッカーの上手い可愛い女の子が居るって有名でしたよ〜。僕も会ったのは今回が初めてですけど」 と須釜の会話に圭介は唖然とし、それとは逆に平馬はつまらなそうな顔をしている。 そんなことも気にせずはマイペースに須釜と話していた。 「スガさんも友達って事でよろしく。で良いよ」 「それは光栄です。よろしくお願いしますね、さん」 「所でスガは何でサン付けなんだ?」 「さん付けた方が良いじゃん」 「答えになってねーよ…」 「じゃぁそろそろ練習時間なので行きますね。ケースケ君達も遅れますよ〜」 「もうそんな時間か…。も外行くのか?」 「見学だから行くと思うよ」 「そっか。じゃぁ俺達先行くから」 「じゃぁな」 「うん、また後で」 気付けば食堂には1人が残っていた。 注意3回で合宿から退場なだけあって皆はちゃんと時間厳守。 そこへ西園寺監督が戻ってきた。 「ちゃん、まだここに居たのね」 「私も外出るんですよね」 「そうよ、見学するんだから外に出なきゃ」 「やっぱり」 「ところでちゃんジャージ持ってきた?」 「見学にジャージって必要なんですか?」 「動きやすいほうが良いじゃない。都選抜のジャージが1つ余ってるからそれを貸してあげるわ」 「良いんですか? 選抜でもないのにジャージ借りて…」 「もちろん。サイズは少し大きいと思うけど平気よね。じゃぁ持ってくるから部屋に戻っててね」 そう言って西園寺監督は食堂を出て行く。 はやっと朝食を食べ終えて、部屋へとゆっくり歩いて戻った。 「はい、これ着てね」 「どうも」 「じゃぁ私は先に外に行ってるから。1人で大丈夫よね?」 「多分」 「何か困ったことがあったら渋沢君が頼りになるわ。東京選抜のキャプテンで背が高くてしっかりしてる子よ」 「渋沢さん…? はい、わかりました。」 「じゃぁまた後でね」 西園寺監督はそう言っての部屋を出た。 は自分の持っていたTシャツと、先程借りた東京選抜のジャージを着て外へ出る。 着てみると確かに少しサイズが大きかったが、には大き目の方を好んでいた。 外は晴れていて雲ひとつ無い快晴で、遠くの景色まで透き通って見える。 だが練習場に居る人達を見ても誰が誰だか分からなかった。 の知っている人と言えば今朝友達になった3人だけだった。 とりあえず西園寺監督を探して自分が何をすべきなのか聞こう、とは思った。 辺りをキョロキョロしていると早速障害物が現れた。 今朝も1番に挨拶してきた東京選抜の藤代誠二だった。 「さん! 東京選抜のマネージャーになったの? 俺大歓迎!」 「マネージャーになんてなった覚え無いんだけど」 「じゃぁ何でジャージ着てるの?」 「西園寺監督に借りただけ。明日からは違うの着る」 「ずっとそのままで良いのに」 「嫌」 「さっきからうるさいんだよね」 割って入ってきたのは椎名だった。 眉間にシワが寄っていて、綺麗な顔も変に崩れてしまいそうだ。 「椎名ってさんの事嫌いなんじゃなかったのかよ」 「そんな事何時何処の誰が言った? 俺”嫌い”だなんて一言も言ってないけど」 「言ってないけど、もめてたじゃん」 「俺にあんな事言うなんて良い度胸してるよね。そこが気に入ったんだけど」 「気に入らなくて良いのに」 藤代が小さく呟いた。 しかしそれはちゃんと椎名の耳に届いてたらしく藤代と椎名とその他がもめだした。 「お前ら良い加減にしないか! さんに迷惑だろ」 「俺は悪くないですよ、キャプテン!」 「あなたが渋沢さん?」 「え?」 名前を呼ばれた渋沢は驚いていた。自分から名前を教えた覚えは無い。 驚いている渋沢に、話しかけられたということで周りからブーイング起こった。 藤代だけはきょろきょろと二人を交互に見て、頭にハテナを浮かべている。 「何でさんがキャプテンの名前知ってるの?」 「俺は名前を言った覚えは無いんだけどな…」 「お世話になります」 はそう言って一礼した。その行動にそこに居た全員が驚いた。 「西園寺監督に困った時はキャプテンに頼れって言われてるんです」 「あぁ…そうか。こちらこそよろしく」 「何でキャプテンなんだよー! さん、俺に頼ってくれて良いんだよ?」 「お前に頼った所で何の解決にもなんねえよ」 「藤代だもんな」 「なんだと!」 「止めろって!」 鳴海・若菜・藤代を止めに入る渋沢。 その隙にただぼーっと立っていたに話しかける人物が居た。 東京選抜の郭英士だ。 「ごめんね、あいつ等うるさくて」 「誰?」 「東京選抜の郭英士。英士で良いよ」 「私の事も適当に呼んで良いよ」 郭の落ち着いた雰囲気に、も自然と心を開く。 「英士! お前抜け駆けすんじゃねーよ!」 「そんな事した覚えないけど」 「今してただろ! ここで!」 「落ち着けよ結人!」 「友達?」 「まぁね」 「俺、若菜結人! 結人で良いから!」 若菜は後ろから抑えていた真田を振り払ってと郭の方に来た。 飛ばされた真田は頭を打ったのか痛そうにうずくまっていた。 「あれ放って置いて良いの?」 「良いの良いの」 「その内元気になるから」 「お前らそれでも友達かよ!」 「名前は?」 が聞くと真田は驚き一瞬だけ頬をほんのり赤らめていた。 そして目を合わせることなくぶっきらぼうに名前を言った。 「真田一馬」 「英士に結人に一馬ね。よろしく。ところで渋沢さん、西園寺監督はどこですか?」 「見てないけど多分向こうの方に居るんじゃないか?」 「そっか、わかりました。あ、英士達またね」 はそう言って都選抜のメンバーから離れた。 |
2003.03.08 / Top | 03:Goal Keeper → |