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04:Manager
はとにかく不機嫌だった。 何故なら先程の西園寺監督の発言が状況を悪化させてしまったからだ。

『実はね、ちゃんには全体のマネージャーをやってもらうことになってるのよ』

もちろん自分は「やる」などとは言っていない。「やりたい」なんて思ったことすらない。 選抜メンバー達は監督の発言で浮かれている。選択肢の無いこの状況をなんとかしたかった。

「やっぱりマネージャーやんねんな」
「私アンタが1番嫌い」
「冗談やって!そんな不機嫌な顔せんといてや。可愛い顔が台無しやで」
「いっその事ブサイクになってアンタが近寄って来ないなら本望だわ」
「別に容姿だけで好きになった覚えあらへんで」
「あっそ」

一人で居ると必ずと言って良いほど近寄ってくるのはシゲだった。 見た目から言ってと居るとかなり目立つ。 だからこれをきっかけに色々な人物が集まってくる。
人が集まる前に逃げておこうとおもったら、松下コーチが笛を吹いて招集をかけていた。 シゲは残念そうにしていたものの、素直に練習へと戻って行く。

全員練習中での周りには誰1人として居ない。 だからと言って練習してる場所の近くに行くと何かと厄介だから離れた場所にある芝生に座り込んだ。

「早く帰りたい…」
ちゃん、お仕事よ!」

の大切な休息時間はこの一言でぶち壊された。 自分の凄く嫌そうな顔とは正反対に、すごく笑顔の西園寺監督が目の前に現れたのだ。

「私マネージャーなんてやりません」
「そんなこと言わないで、ちゃんが必要なのよ!」

「そんなに力まれても困るんですけど」
「ほら、さっさとお仕事始めるわよ〜」
「ちょっと待…」
「手伝ってくれたら練習終わった後に買い物連れてってあげるから」

買い物に行ける→ジャージが買える→都選抜ジャージが不必要になる→自由

の頭の中で物事が解決したらしく、「やります!」とはりきって西園寺監督の後に続いた。 よっぽどこのジャージ姿が気に入らないらしい。 西園寺監督の思う通りに進行している事にまず疑問を抱け、という感じだが。
さっきまでの態度とは打って変わって、はハキハキとした態度で次々と仕事を片付けていった。 しかし早く終わりすぎて何もやることがなくなってしまい、練習が終わるまで黙って待つことになる。

「早く練習終わんないかなー」
「まだまだ終わらないわよ」

ため息をつきながらも、練習しているすぐ近くのベンチに座っていた。 西園寺監督の言うとおり、まだ練習は始まったばかり。 は仕方なくベンチで退屈な時間を過ごすことになった。
座って待っていること以外することの無いは西園寺監督の横に座り練習風景を見ている。 しかし実際見ていたのは雲が数えられる程度にある晴れた空。
が見てるから、とはりきる奴も居たが本人は興味が無く全くみていなかった。
練習開始から3時間程経った。時刻は0時。 一旦練習は終わり、昼食を取ってから午後の練習が始まる。 笛を吹く音が聞こえ、やっと午前の練習は終了した。

「あら、もうお昼なのね」
「ごはん食べてきます」
「駄目よ、タオル配ってあげないと!」
「セルフサービスで」
「…買い物行かないの?」
「早急に配ってきます」

条件付で仕方なくマネージャーをやっているだが、何気に仕事をこなすのは早い。 素早く近くにあったタオルの入ったカゴを手に皆の居るところまで走った。

ー! 俺カッコ良かったやろ?」
「見て無い。はい、タオル」

笑顔で近寄ってきたシゲを軽く流してタオルを投げるように渡した。 そしてショックを受けているシゲを放っておいて藤代達が駆け寄ってくる。

さん、俺のこと見てたんだよね?」
「違げーよ! 俺に決まってんだろ?」
「何勘違いしてんのさ。俺に決まってるじゃん」
「有り得ないでしょ」
「はい、タオル」

藤代・若菜・椎名・郭もシゲと同じように軽く投げてはさっさと別の場所へと移動してしまった。 そしてあっという間にカゴは空になり、昼食を食べにその場を去ろうとした時だった。

「俺タオル貰って無いんだけど?マネージャーさん」

声を駆けられたが振り返ると、にっこり笑って立っている日生が居た。 はしばらく考えてやっと日生の名前を思い出した。

「日生だっけ? マネージャーって呼ばないでよ」
「じゃぁさん?」
「…で良い」
「何でそんな嫌そうな顔するんだよ」
「名字で呼ばれるの嫌だから」
「ふーん。まぁ良いけどタオルちょうだい。風邪ひくから」
「あーうん。ちょっと待って」

は空になったカゴを持って監督の居るベンチまで戻った。 しかしタオルは余って居なかったらしく、外に持ってきていた携帯や鏡などが入ったバッグから 自分のスポーツタオルを取り出した。そしてそれを日生に手渡す。

「はい、これ使ってないから貸してあげる」
「良いの?」
「タオルは施設戻らないと無いみたいだし、貸すくらいなら良いよ」
「サンキュー」
「やっとごはんだ…!」
「なぁ、昼飯誰かと一緒に食べんの?」
「ううん、別に」
「じゃぁ一緒に食べようぜ」

日生は笑顔でそう言う。 断る理由の無いはあっさり「いいよ」と返事をして、一緒に食べることにした。


食堂へ戻ると朝と同じように人で溢れていた。 入ろうとした瞬間目の前に居た1人の少年と目が合い、その途端少年が「あ!」と叫ぶ。 の後ろに居た日生も「あ」と気が付いたように言う。

「光っくん、ずっと探してたんだべ!」
「あぁ、悪い雄大」
「誰?」
「俺と同じ東北選抜の雄大」
さんだべな。よろしく!」
「うん、よろしく」
「じゃぁ俺達向こう行くから」
「俺達のとこ2つ席空いてるからそこ座れば良いっちゃ。他の席空いてないべ」
「私はどこでも良いけど」
「じゃぁそこでいっか」

日生は仕方無さそうな顔をして答えた。多分と2人だけで食べたかったのだろう。 そんなことも知らずに昼食を受け取り、は雄大たちの居る席に座った。

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