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ボール拾いも無事終わり、やっとベンチに戻って座ることが出来た。
が座っているベンチの前の練習場では松下コーチが指揮をとり練習が行われていた。 良く見ると風祭、シゲ、高山、須釜等が居てこれから何をするのかと見ていると、 鳴海が最初にボールへと向かって走っている姿が見えた。 そしてボールを一度足元で止めて辺りを見回してる時横から松下コーチがボールを取り、 状況判断が遅いと声を上げて鳴海に注意をする。 その後もコーチに全てボールを奪われて、シュートまで辿り着く者は出ないでいる。 そのまま練習を見ていると、視線を感じ気になる方向を向くと自分と同じ様な感じの奴が居た。 言うまでもなく、それはシゲでにこにこ笑いながらを見てる。 それに気づいたは嫌な顔をしたが、シゲはこっちに向かって来なかった。 よく見ると練習はシゲの番となり、さっきとは違って真剣な顔で前を向いている。 シゲの横に居た他のコーチがボールを蹴ったと同時にシゲは走って行く。 それと同時に松下コーチやDFの昭栄も走り出した。 シゲの正面には松下コーチが止めに入りに来たがシゲはアウトサイドキックでかわして、 昭栄は飛んできたボールを蹴ろうとしていたがGKの目の前に出てしまった。 その昭栄をブラインドにしてシゲがそのまま股抜きシュートを打つ。 ボールはゴールネットを揺らし、周りから歓声が沸いた。 納得のいかない昭栄は再戦を挑むが、シゲはそれを無視してのもとへと駆け寄る。 「! 今のかっこよかったやろ?」 「別に」 「素直やないなぁ。本当は好きなくせに」 「何がどうしてどうなったらそういう答えが出るんだよ」 「まぁまぁ照れんでもええって!」 「あ、チビだ。スガさんも」 はシゲを無視して練習風景を見ていた。そこにはの言う通り風祭と須釜が居る。 風祭は松下コーチをかわしたものの、次で須釜にボールをカットされてしまった。 「あのチビ名前なんていうの?」 「ポチやで」 「名前だってば」 「俺には興味なくてポチに興味あるなんて、気に食わんなぁ」 「そんなの私の勝手じゃん」 「何でそんなに俺のこと嫌うん?」 「そんなの、自分で考えれば」 「思い当たること無いんやけどなぁ」 「そういうところが…!」 が怒って声を大きくした時、頬に自分のじゃない髪の毛がふわりと当たった。 それと同時に一瞬だけ何かが触れてその感触はすぐ無くなってしまった。 はっとしては我に返るとシゲの顔がすぐ近くにあって目が合い、 シゲはにっこりと笑っての頭の上に手をのせて髪の毛をくしゃっと撫でる。 「こういうところも嫌い、って言いたいんやろ?」 「ふざけんのもいい加減にしろ!」 「ほっぺやしあんまり問題ないやん」 「最低! 大嫌い! 今すぐ消えてよバカ!」 そう言っただったがシゲに近くにあったドリンクのボトルを投げつけて自分から逃げた。 少し走って練習場から離れるとは立ち止まり振り返ってシゲが追いかけて来ないか確認する。 不思議なことに後ろには誰も追いかけてくる者は居なかった。 は一息ついてゆっくり施設の方へと向かって歩いていくと目の前にどこかの選抜のメンバーが2人居た。 向こうもの姿に気が付くとニヤっと笑って近づいてくる。 「君、今暇なの?」 「向こうで一緒に喋ろうよ」 「うるさい」 「は?」 「うるさいって言ってんの。あんた達に付き合ってるほど暇じゃない」 はそう言ってその場を立ち去ろうとした。 しかし断られた2人組はの態度を見て表情が一気に変わった。 「少し顔がマシだからってつけあがってんじゃねーよ」 「どうせ男目当てで来たんだろ?」 2人組は笑ってそう言っていた。 こんなことを言われて不機嫌だったは更に機嫌を悪くして振り返る。 そして2人組の方に戻ってきて立ち止まった。 「お前らこそサッカーする気ないなら早く帰れよ。実力も無さそうなのによくこんな所に居れるよね」 「俺たちの実力も知らないで勝手なこと言ってんじゃねーよ!」 「そっちこそこっちの気持ちも知らずに勝手なこと言ってんじゃん。ふざけてんのはそっちでしょ」 「…っ!女のくせにうるせーんだよ!」 に冷静に言い返された相手は頭にきて拳を振り上げる。 しかし、その瞬間"ドスッ!"という音と共に相手が「痛っ」としゃがみこんだ。 しゃがみこんだ相手の横にはサッカーボールが転がっている。 「女がどーとかよりも、お前等に問題があるってことに気付けよ」 「あ…平馬」 「も売られた喧嘩を素直に買おうとすんなよな」 「誰だよお前!」 「東海の横山」 相手の質問に同様、普通に受け答えする平馬は相手を無意識に挑発している。 ボールを当てられて居ない方の奴は完璧に頭にきているようで平馬の胸ぐらを掴んだ。 「ヒーローぶってんじゃねえぞ!」 「俺はヒーローなんて柄じゃないと思うんだけど」 「…ムカつくんだよお前みたいな奴!」 「そうゆうアンタが1番ムカつく」 そう言ってが後ろから相手を殴った。 日頃のストレスが溜まって居たのか思いっきり力を込めて殴った為相手はそのまま倒れてしまった。 「死んでないよね」 「大丈夫だろ」 平馬は掴まれていたジャージの所を直してボールを拾う。 は最初にしゃがみこんだ相手に向かって「そこに倒れてんの連れて帰ってよ」と言った。 すると相手は怯えて仲間を連れてその場から立ち去った。 「は大丈夫なのか?」 「私は平気だよ。さっきはちょっとむしゃくしゃしてて力込めすぎた」 「金髪の奴のせいだろ、腹立ってんの」 「…見てたの?」 「偶然視界に入っただけ」 はハァと溜息をついて下を向いた。 今まで強気だったのとは違って少し落ち込んでるような表情だった。 「こんな所、来なきゃ良かった」 「…ホームシック?」 「違う。変な奴に追い掛け回されるし、弱い奴に喧嘩売られるし。良い事何も無い」 「でも俺は来て良かったと思うけど」 「何で?」 「だってと会えたし」 「私も平馬と友達になれたのは良かったと思うよ」 「ほら、良い事あったじゃん」 その言葉には黙って平馬を見た。そして「そうだね」と、笑った。 平馬は少し微笑んで、それからまたいつもの表情に戻って言った。 「俺、本気だからな」 「誰も疑ってないよ」 「のこと」 「え?」 「俺は本気で好きだから」 |
2003.03.10 / ←top | 07:Midfielder → |