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午後7時過ぎ。
人通りの少ない道を一台のスポーツカーが走っている。その車はそのままJヴィレッチ内へと入っていった。
駐車場に車を止めると運転席からは西園寺監督、助手席からが出てきた。
そしてトランクから荷物を取り出し、二人は施設へ入った行く。
「ちゃん1人で持てる?私これからミーティングあるんだけど…」 「大丈夫ですよ。ありがとうございました」 軽く頭を下げてお礼を言うと、は廊下を通って自分の部屋へと向かう。 は平馬と別れた後、仕事もせずに自分の部屋にずっとこもっていた。 平馬に言われたあの一言がの心の中でずっと響いている。 その後が居ないことに気付いた西園寺監督は、練習後部屋まで迎えに行き買い物へ向かったのだった。 が荷物を抱えて廊下を歩いていると、昼間とは違うジャージを着た圭介に逢った。 「あ、ケースケ」 「何処行ってたんだよ。急に居なくなって」 「見ての通り買い物。ねぇ、これから時間空いてる?」 「空いてるけど…」 「話あるんだ。私急いで荷物置いてくるから」 「え? あ…うん。わかった」 突然の誘いに圭介は何か心当たりがあったかどうか考え始めた。 はそれだけ言うと荷物を抱えたまま自分の部屋の方へと急ぎ足で向かっていった。 「話って何?」 日が落ちて暗く、静かな場所にあるJヴィレッチの外の階段に2人は居た。 呼び出された圭介はこれから何を言われるのか分からず、色んな意味でドキドキしていた。 「どっから話すべきなんだろ…」 呼び出したは圭介の気持ちなんて知るはずも無く、頭を抱えて考え込んでいる。 冷たい風がひんやりと頬に触れる。しばらく沈黙が続いた後、がゆっくりと口を開いた。 「サッカー楽しい?」 「は?」 「いや、違う…こんなこと聞きたいんじゃなくて」 「…どうした?何か変だぞ」 「あのさ、質問しても良い?」 「…良い、けど」 「普通の良い友達だって思ってた人から"好き"って言われたら付き合う?」 「はぁ? …って、ま」 「わぁあ! そ、それ以上言わないで良いから答えてよ!」 圭介が何かを言いかけた瞬間、は圭介の口を両手で塞いだ。 それに圭介は吃驚した後、このままじゃ喋れないとの手を離す。 膝を抱えて座っているを見て圭介は一息付いて少し悩んだ。 「話し聞いてた? 答えてよ」 「急かすなよ」 「やっぱり悩むよね…」 はぁ、と溜息を付いて膝におでこをつけてはまた考え込んだ。 圭介はこんなの姿は今まで一度も見たことがなくて戸惑、どうすべきか頭を抱えた。 「なんか、すげー嫌だ」 「…何が?」 「他の奴が好きだとか言っても真に受けないくせに…平馬は例外みたいな感じで」 「ち、違う…!」 「呼び出す相手間違ってるだろ? 平馬なら部屋に」 「違うって言ってんじゃん! …まだ知り合って浅いし好きとかわかんなくて…ヘタに答え出したら」 「”嫌われる”って思った?」 「…うん。変な風に勘違いとかされたくなくて」 「むしろ嫌われんのが恐いのは俺達の方だって」 「え?」 「俺も…が好きなんだけど」 圭介の言葉には驚いて瞬きをすることさえ忘れ目を開いたまま動きが止まった。 それから口をぱくぱくさせて何か言おうとしていたが頭の中が混乱して何が何だか分からなくなる。 その様子を見ていた圭介が思わず吹き出して笑い始めた。 「な、何で笑うの!」 「だってが取り乱してる所なんて見た事ないし」 「私だってそんなこと急に言われたら頭の中可笑しくなるよ!」 「悪ぃ…そんなに怒んなよ」 圭介はまだ少し笑いながら謝った。 さっきまでの重い空気は無くなり、も圭介も少し気が楽になったようだ。 それから一息置いて圭介がまた口を開く。 「別に俺、答え急いでないから。ゆっくり考えて」 「ゆっくり考える暇なんか無いっつーの…明日試合じゃん!」 「は出ないだろ?」 「当然。でも試合は見るよ」 「俺の?」 「ケースケのじゃなくて東海の試合」 「あーそう、それ」 「…何か今のケースケ、前と違う人みたい」 「俺も今のに対して同じこと思ってる」 「私変わった?」 「凶暴っぽいイメージあったけど、実際は違ったから安心した」 「…凶暴って」 「そろそろ部屋戻るか。まだ話すことある?」 「ううん、いい。ありがとね」 「気にすんなって」 部屋の方向が違う為、途中の廊下で圭介と別れては自室に戻った。 ベッドにそのまま倒れこんで、うつ伏せの状態で小さく溜息をついた。 今すぐではないけれど、いつかは答えを出さなきゃいけないということだけが頭に残る。 偶然、必然。どちらにしても、今夜は眠れそうに無い。 |
2003.06.20 / Top | 08:Provocation → |